研究活動
非線形ダイナミクスとその応用について研究しています。
- ハイブリッドシステム:離散性や不連続性を有するシステムのダイナミクス
- 多体ダイナミクス:大自由度系におけるカオスや相転移など
- カオスと計算:決定論的サンプリング法など
- 数理モデリングへの応用:電力システム,脳・神経系,感染症など
研究の概要
非線形ダイナミクス・非線形力学系に関する基礎理論研究と,
実現象の数理モデリングによる応用研究を
二本の柱として研究を進めています。
何らかの決定論的ルールに従って時間発展するシステムのことを力学系といいますが,
非線形性を持つ力学系の挙動(非線形ダイナミクス)には,
カオスをはじめとする興味深い現象が現れることが知られています。
単純な微分方程式や写像で記述された力学系から,
想像もつかないほど豊かな振る舞いが現れてくることが,
非線形ダイナミクスの大きな魅力であり,
現在も大規模な力学系や不連続性を持つ力学系などに現れる
非自明で興味深い現象の研究が進んでいます。
また,脳・神経系などの生体システムや,電力システムなどの工学システムなど,
世の中には非線形力学系によりモデル化される現象があふれています。
非線形ダイナミクスの観点から様々な動的な現象をモデル化・解析することは,
多様な分野への貢献につながるとともに,
未知の非線形ダイナミクスの発見・探究にもつながります。
非線形ダイナミクス
研究の一つの柱である,非線形ダイナミクスに関しては,
主に「ハイブリッドシステム」,「多体ダイナミクス」,
「ダイナミクスと計算」などのテーマに関心があり,研究に取り組んでいます。
- ハイブリッドシステム
- 離散性や不連続性を持つシステムのことです。
たとえば,ビリヤードテーブル上に一つだけ置かれたボールの動きを
力学系として記述することを考えると,
ボールがテーブル内部にあるとき,その位置や速度は連続的に変化しますが,
ボールが壁にぶつかって跳ね返るときには,速度が不連続的に変化します。
このように,連続性と離散性(不連続性)を併せ持つシステムのことを,
連続と離散のハイブリッドということで,ハイブリッドシステムと言います。
世の中の自然現象や工学システム等のモデルには,
状態のジャンプや,状態のスイッチングなどが自然に現れ,
ハイブリッドシステムとして記述されることが多くあります。
たとえば,神経細胞の「発火」も状態のジャンプにより表現することができますし,
より一般に,放電現象など,ある「閾値」を越えると生じる現象は
ハイブリッドシステムとしてモデル化されます。
また,交通信号によって交差点での車の流れが切り替えられるというようなことも,
ハイブリッドシステムによりモデル化することができます。
さらに,ハイブリッドシステムは,
単純なルールから想像もつかないような豊かな挙動を示すことが多々あり,
興味深いダイナミクスの宝庫でもあります。
- 多体ダイナミクス
- 多数の構成要素がネットワークなどにより結合したシステムの挙動のことです。
単に構成要素がたくさんあるということではなく,たくさん集まることによって,
相転移やパターン形成など,個々の構成要素からは想像できないような
挙動や機能を示すことが面白いところです。
このような多体ダイナミクスは,脳・神経系,交通流,電力システム,感染症の伝播など,
様々な実現象の数理モデルとして自然に現れます。
個々の構成要素の仕組みや要素間のつながり方が,
全体としての挙動にも影響を与えます。
- ダイナミクスと計算
- 計算や情報処理を行うシステムのダイナミクスや,
非線形ダイナミクスに基づく計算に関心を持っています。
たとえば,私が提案したカオスボルツマンマシンは,
確率的な神経回路モデルであるボルツマンマシンの決定論的な実装です。
乱数を用いないマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)と考えることもできます。
このテーマは,上述のハイブリッドシステムや多体ダイナミクスとも
密接な関連があります。
実現象のモデリング
研究のもう一つの柱である,実現象の数理モデリングによる応用研究に関しては,
これまで主に,脳・神経系,交通流・交通信号,電力システム,感染症などの
数理モデルの研究を行ってきました。
一見バラバラな研究対象のように感じられますが,異なる分野のモデルであっても,
非線形ダイナミクスの観点からは共通する要素が数多くあります。
ある分野のモデルに関する知見が,全く異なる分野においても役立ち,
さらには非線形ダイナミクスに関する理論的知見にもつながります。
このような観点から,特定の分野だけに限ることなく,
多様な分野で数理モデル研究を進めています。
私自身が重要だと考えているのは,応用といっても
単に既存の非線形ダイナミクス・力学系の理論を応用するということではなく,
応用分野の課題に取り組むことが理論的にも新しくて興味深い問題の発見や
解決につながっていくということです。
個別の研究については論文を参照して下さい。
最近のいくつかの論文に関しては以下に日本語の情報があります。
Chaotic Boltzmann machines
Chaotic Ising-like dynamics in traffic signals